Andor CCD Cameraの性能評価は、岡山天体物理観測所にて、11/13-21にかけて
行った。
実験は
11/13-14 linearity, gain測定用の実験
11/15-16 dark, biasのCCD温度依存性の実験
11/13,18-21 長時間にわたるbias連続取得
11/15,17-20 長時間積分darkの取得
を行った。
実験期間中の15日にCCDチップの冷却が不調になった。扇風機で風を送ることで
冷却の調子が良くなったため、この時から扇風機でカメラの排熱口に常時
送風した状態で実験を継続した。
AndorCCDのgainは、デ-タの読みだし速度と対応している。
読みだし速度は、1μs, 2μs, 16μs, 32μs の4タイプがある。
読みだし速度とgainの対応は、下記のとおりである(カタログより)。
読みだし速度 | gain [ADU/e-] |
---|---|
1μs | 0.5 |
2μs | 0.5 |
16μs | 0.7 |
32μs | 1.4 |
AndorCCDカメラは、ソフト上でのCCD温度表示が5℃単位で表示されるため、CCD
の温度管理をどの程度の精度で行っているのかがわからず、温度管理がずさんで
bias levelが変動している可能性が考えられる。
そこで、本試験では bias を長時間にわたり取得することで、bias levelの変
動を調べることを目的とする。
試験は2つの方法でおこなった。
図1より、11/13-14に取得した bias frameは、全体の平均値が10ADU程度の変動
を示すことがわかった。
この変動のタイムスケールは、ピーク付近では読みだし時間(およそ32秒)よりも
短いため、1枚のbias frame内でも bias値の変動(=傾き)が起きている可能性が高い。
この「bias frame内の傾き」を調べるため、1枚のbias frame (2048x512 pix)
内で図4のように20pixel四方の9つの領域を切り出し、各領域内で平均値を取る。
この平均値を異なる領域間で比較することで、傾きの有無を調べることにする。
region-1: 21, 21 | region-4: 1011, 21 | region-7: 2011, 21 |
region-2: 21,251 | region-5: 1011,251 | region-8: 2011,251 |
region-3: 21,481 | region-6: 1011,481 | region-9: 2011,481 |
傾きの調査には、図1でプロットしている bias frame 120枚×3セットを使用し
た。
bias値の傾きの測定は 領域1を基準に、y軸方向とx軸方向、対角線方向の
3方向で行った。
まずは、最初のセットでのy軸方向(領域2-領域1、
領域3-領域1)の傾き
の時間変化をプロットしたのが図5で、
x軸方向(領域4-領域1、
領域7-領域1)の傾きの時間変化を
プロットしたのが図6である。
両図とも、比較のために領域1の平均値の時間変化を破線でプロットしている。
図5:y軸方向の傾きの時間変化 | 図6:x軸方向の傾きの時間変化 |
---|---|
図7:1セット目 | 図8:2セット目 | 図9:3セット目 |
---|---|---|
もしこのbias変動がAndorCCDカメラの正常な動作である場合、overscan領域の設
定や光が照射されていない領域をoverscan領域に見立てるような設定を行わなけ
れば、暗い天体の高精度観測は困難である。
補足: 2005 08/17
2004年12月に東京インスツルメンツに相談し、CCDカメラとケーブルを送って診断して
もらったところ、CCDカメラと電源ボックスを結ぶケーブルの接触不良(より正確には、
CCDカメラとのコネクタ部分)であることがわかった。
新しくケーブルを購入し、2005年1月29-30日と2005年5月12日に再度バイアステストを
行ったところ、2004年11月に見られたような数ADUにもおよぶ変動が現われなくなった。
y方向の傾斜 | x方向の傾斜 |
---|---|
CCD温度を-40℃から-90℃まで5℃ステップで変更し、1000秒積分のdarkとbias をそれぞれ取得した。 1つの設定温度につきdarkを3枚取得し、biasはdarkを挟む形で前後に取得した (つまり1つの設定温度につき4枚)。 図10と図11は、直後のbiasで引いた3枚のdarkをimcombineでmedian結合したイメージ である。 図10は上から-40℃、-50℃、-60℃、-70℃のdarkを表示しており、図11は-75℃、-80℃、 -85℃、-90℃を表示している。
図10: -40℃〜-70℃のdark image | 図11: -75℃〜-90℃のdark image | -40℃ | -75℃ |
---|---|---|---|
-50℃ | -80℃ | ||
-60℃ | -85℃ | ||
-70℃ | -90℃ |
図12: -40℃〜-70℃のbias image | 図13: -75℃〜-90℃のbias image | -40℃ | -75℃ |
---|---|---|---|
-50℃ | -80℃ | ||
-60℃ | -85℃ | ||
-70℃ | -90℃ |
4つの読みだしモ-ド(1μs, 2μs, 16μs, 32μs)でlinearity測定実験を行った。
実験には、光源に低電圧電源からの電源供給を受けるLEDを使用し、LEDとCCDカメ
ラとの間に拡散ガラスを置いて行った。
積分時間100秒で62,000[ADU]程度になるようカメラとLED間の距離を調節し、
積分時間を10秒から100秒まで(1μs, 2μsでは110秒まで)変えてflat frameを2
枚連続で取得し、光量とカウントとの線形性を調べた。
この実験は13-14日の2日間、冷却のトラブルが起きる前に行っている。
取得したflat frame には、斜めに線が入ったようなパターンが見られた(図16)。
図16: 60sec積分のflat frame | 32μs |
---|---|
16μs | |
2μs | |
1μs |
図18:図A1のx=1000での断面図 | 図19:図A1のy=400での断面図 |
---|---|
図20-23: 各読みだし速度でのlinearity( Nc∝t^γ ) | ||
図20:1μs | 図21:2μs | |
図22:16μs | 図23:32μs | |
一方、試験中のLED光源の安定性を図24に示した。 この図は、各読みだし速度ごとに全てのframeで平均を取った後、 その平均に対するframeの相対誤差を計算し、プロットしている。 よって 読みだし速度が異なるとグラフでの0点の値(=平均のカウント値)も 異なる。
16μs, 32μs では、Nc < 62,000 ADU まで 2μs では、Nc < 52,000 ADU まで 線形性が保たれていることがわかる。一方、1μs は カウントが小さい領域と大きい領域で線形性が0.3%よりも悪く なることがわかる。特に、カウントが小さい(Nc < 10,000 ADU)領域では、誤差 が1%よりも大きくなるので、観測には使用しない方が望ましい。
各読みだし速度のフィッティング結果(f(t)=a×t^γ)は、以下のとおりである。
読み出し速度 | データ使用範囲 | best-fit parameters | χν | |
---|---|---|---|---|
a | γ | |||
1μs | 全部 | 709.8 ± 72.3 | 0.94432 ± 0.02321 | 107 |
t:0-80 | 565.8 ± 1.17 | 1.00841 ± 0.000530 | 0.0224 | |
2μs | 全部 | 725.0 ± 72.0 | 0.94041 ± 0.02265 | 104 |
t:0-80 | 580.9 ± 1.35 | 1.00296 ± 0.000598 | 0.0293 | |
16μs | 全部 | 641.5 ± 1.97 | 0.99905 ± 0.000078 | 0.0527 |
32μs | 全部 | 619.7 ± 1.27 | 1.00062 ± 0.000506 | 0.0176 |
linearity測定に用いたflat frameをそのまま利用して、4つの読みだし速度での
gain測定を行った。
カウント、分散の計算に用いた領域は、linearity測定と同じ領域
(x:700-800,y:375-475)である。
補足:カウントNa[ADU]と分散σa^2の計算
flat1: biasを差し引いた1枚目のflat frame
flat1: biasを差し引いた2枚目のflat frame
とすると、
・Na = 平均[ (flat1 + flat2)/2 ]
・Naの誤差 = 標準偏差[ (flat1 + flat2)/2 ]
・σa = 標準偏差[ (flat1 - flat2)/√2 ]
図25-28: 各読みだし速度での分散VS カウント関係 | ||
図25:1μs | 図26:2μs | |
図27:16μs | 図28:32μs | |
ところで、
AndorCCDのread-out noiseは、全ての読みだし速度で 1.5-3[ADU]程度である。
カタログから、gain(=1/a)は gain≧0.5 であるので、bの大きさは b <5 程度である。
一方、yは10,000以上になるので、fittingにおいては「b=0」と仮定しても
全く問題がない。
試みに、read-out noiseが大きいと考えられる 1μs, 2μs では
fit関数:f(x)=a*x+b
でもfittingを行ってみた。
各読みだし速度でのfitting結果を下の表にまとめている。
読み出し速度 | fit範囲(分散) | best-fit parameters | χν | |
---|---|---|---|---|
a | b | |||
1μs | 300:20000 | 2.793 ± 0.026 | - | 24.6 |
2.837 ± 0.039 | -369.3 ± 248.2 | 22.1 | ||
300:10000 | 2.699 ± 0.017 | - | 3.3 | |
2.656 ± 0.021 | 195.3 ± 83.8 | 1.3 | ||
2μs | 300:20000 | 2.822 ± 0.025 | - | 23.0 |
2.904 ± 0.025 | -682.9 ± 161.1 | 9.0 | ||
300:10000 | 2.719 ± 0.022 | - | 5.5 | |
2.783 ± 0.020 | -287.1 ± 80.3 | 1.1 | ||
16μs | 100:30000 | 2.029 ± 0.033 | - | 45.7 |
100:25000 | 2.000 ± 0.016 | - | 10.1 | |
100:17000 | 1.977 ± 0.011 | - | 3.2 | |
32μs | 100:60000 | 0.999 ± 0.007 | - | 8.6 |
100:50000 | 0.990 ± 0.004 | - | 1.5 |
読み出し速度 | gain(=1/a) [ADU/e-] | 比(測定値/カタログ値) | |
---|---|---|---|
測定値 | カタログ値 | ||
1μs | 0.361 ± 0.009 | 0.5 | 0.722 ± 0.018 |
2μs | 0.356 ± 0.012 | 0.712 ± 0.024 | |
16μs | 0.500 ± 0.007 | 0.7 | 0.704 ± 0.010 |
32μs | 1.005 ± 0.005 | 1.4 | 0.703 ± 0.004 |
どの読みだし速度のgainでも、測定値とカタログ値ではほぼ同じファクター
(0.71±0.01)だけ異なっている。
このファクターは、誤差の範囲内で1/√2 = 0.707 と一致する。
このことから
測定値とカタログ値では系統的に1/√2だけずれていると考えられるが、
この原因は不明で、現在も調査中である。
linearity測定やbias levelの安定性試験で取得したbias frameを用いて
1:同じCCD温度(-85℃)でのread-out noiseと読みだし時間との関係
2:同じ読みだし速度(32μs)でのread-out noiseとCCD温度との関係
を求めた。
read-out noiseの求め方は、1枚のbias frame全体でカウントの標準偏差をとる。
この標準偏差がread-out noise σ(read-out)である。
このσ(read-out)を同じ読みだし速度、同じCCD温度で取得したbias frame
全てで求め、その平均値(と標準偏差:これが平均値の誤差に相当する)を求めた。
このような方法を用いたのは、bias levelの変動の影響を含めないように
するためである。
[1]各読みだし速度でのread-out noise(-85℃)を下の表にまとめた。
読みだし速度 | read-out noise | frame数 | |||
---|---|---|---|---|---|
測定値 | カタログ値 [e-](※1) | Performance値 [e-](※2) | |||
σ[ADU] | σ[e-] | ||||
1μs | 3.069 ± 0.009 | 8.501 ± 0.025 | 10 | 6.33 | 36 |
2μs | 2.980 ± 0.035 | 8.371 ± 0.098 | - | 6.58 | 47 |
16μs | 1.420 ± 0.052 | 2.840 ± 0.104 | - | 2.35 | 42 |
32μs | 2.536 ± 0.066 | 2.523 ± 0.066 | 3 | 2.18 | 33 |
(※1) カタログ値のread-out noiseは、CCD温度が-50℃での測定値。
(※2) Performance値のread-out noiseは、個々のCCDカメラごとに業者が
測定した値。
定義はあるpixelの複数のbias frame間での標準偏差で、
我々の方法と異なっている。
測定方法、条件は(※1)と同じ。
どの読みだし速度でも我々の測定値の方が、カタログ値より小さい。
これは計算方法の違いにより、カタログ値がbias levelの変動をσに含めるのに
対し、我々の測定方法は含まないのが原因だと考えられる。
測定値とPerformance値を比較していみると、カタログ値ほど差が大きくないが
やはり測定値の方が10-30%程小さい。
一方で単位変換で計算に用いるgainを我々が求めた値にすると、
この表のσ[e-]の値は全ての読みだし速度で1.4倍になる。
この場合、測定値とカタログ値は非常に近い値になるが、
やはりわずかに測定値の方が小さい。
Performance値と測定値との比較では、gainを我々が求めた値にすると
測定値の方が僅かに(10-30%)Performance値よりも大きい値になる。
[2]CCD温度:-65〜-85℃でのread-out noise(32μs)を下の表にまとめた。
CCD温度 | read-out noise | frame数 | |
---|---|---|---|
σ[ADU] | σ[e-] | ||
-65℃ | 2.544 ± 0.003 | 2.531 ± 0.003 | 401 |
-70℃ | 2.498 ± 0.003 | 2.486 ± 0.003 | 726 |
-75℃ | 2.484 ± 0.003 | 2.472 ± 0.003 | 421 |
-80℃ | 2.486 ± 0.005 | 2.474 ± 0.005 | 244 |
-85℃ | 2.467 ± 0.003 | 2.455 ± 0.003 | 401 |
[ADU]から[e-]への単位変換には、測定値のgain(=1.005)を使用している。
この表からread-out noiseはCCD温度に依存しないことが確認できる。
なお、32μs、-85℃での測定値を[1]と[2]で比較すると、エラーが一桁以上異なっ
ている。
これは、[1]のデータが冷却ファン不調前に取得していることに対し、[2]のデー
タが冷却ファン不調後に取得していることと関連していると考えられる。
詳細は、「1:bias levelの安定性」
を参照。
今回の性能試験では以下の項目が未解決のままであり、観測に投入する前に 更なる試験を行う必要がある。