◎ リップルの安定性調査 (2001.04.22)
目的: 波長板を光が通過する際に生じるリップルを除去するには
その波長依存性と強度が安定していることが望ましい。しかし、
環境(気温、湿度、気圧)等の変動によって波長板が膨張/収縮
を起こし、その厚みと屈折率が変化し、その結果リップルの
振幅と位相が変化することが考えられる。観測期間中にリップル
は実際に変動するのか、変動するとすればどの程度の量なのか
を探るのが今回の実験の目的である。
方法: 気温が急激に変化する夕刻すぎから夜半までの間、一つの天体
(=αCMi、UP)を連続して撮影する。得られたスペクトルを時間系列に
沿って並べ、リップルの変動を見る。波長板の方位角は常に0度。
たわみによるスペクトル像の移動を憂慮して、コンパリソンランプを
こまめにとるように心がける。
結果: 図は、各次数におけるκ=(常光/異常光比)である。
1%程度の振幅、つまりリップルが盛大に見えている
(川端レポート参照)。
a. リップルの振幅
時間に依存することなく、ほとんど一致している。
しかし、周期にして1pix程度の極めて細かいパターン
に対しては、5%程度の変動が見られる。
b. リップルの位相
各次数のスペクトル中から、100pix程度のスペクトルを
3本切りだし、その周期パターンが変動しているかどうか
を見たのが図である。縦軸は、パターンのずれをピクセル
単位で表したものを、横軸には時間をとっている。観測時間は
3時間半程度であった。この間にドーム内の気温は2度下がって
いた。
どの波長域でもリップルパターンのずれの量は±1pix(=0.14pix)
以下には収まっている。また、ずれの方向に系統的なものは見ら
れない(*)。現在の波長決定精度が、0.15A程度であるので、現在
の波長合わせの精度の範囲内では、リップルの位相ずれは生じて
いないと言える。
同じ次数中の切り出した3本のスペクトルを比較すると、それぞれ
は同期していることが分かる。シフト量同士のずれは、0.5pix以下。
これは、もしリップルの周期がずれた場合にも単純にスペクトルを
波長方向にδλだけシフトすることで、スペクトルの重ね合わせが
できるかもしれない可能性を示している。
m=28の早い時間帯では、他の時間帯に比較して大きくずれているよう
に見えるが、これも波長決定精度の問題である可能性がある。ずれ
の大きい一連の時間帯のデータ点は、同じ比較光源スペクトルを
用いて行ったものであるからである。
*観測の後半、+方向に系統的にずれていっているように
見えるがこれはこの期間にコンパリソンランプの撮影ができな
かったことによる。つまり、リップルの変動とは別な効果(たわ
みなど)を見ていると考えられる。
まとめ 現在の波長決定精度の範囲内では、リップルの変動は検出できて
いない。しかし、波長決定の精度はコンパリソンランプの同定ア
トラスを見直すことで1/3-1/2になることが見込まれており、
波長決定精度を向上させた上で、もう一度安定性について検証
する必要があろう。
また、他の観測日との比較も行うことは、他の日に得た標準星
スペクトルを使用できるかどうかを確認する上で重要な項目で
ある。