May. 6, 2002.
これまではCCD chip温度として、CCD chip直下のコールドプレート部分の
白金抵抗測定値を用いていた。しかし、2001年末〜2002年初めの三鷹での
実験、UHでの観測を通じて、ノイズと温度の関係が一定でないことなどから、
必ずしもコールドプレート部分の温度がCCD素子部分の温度と
一致していないことが示唆されていた(補足1)。
CCD素子部の正確な温度を把握することは、
素子性能(読みだしノイズ、熱電流、転送効率等)が素子温度に
敏感であるため、素子の正しい性能評価を行う上で欠かせない。
本実験では、ダミーチップの側面のCCD表面に近い部分に新たに白金抵抗を
取り付けて冷却し、これまでのコールドプレート部分との温度の差異を
測定し、コールドプレート部分に対してCCD表面ではどの程度温度が
異なっているかを明らかにする。
100Ω白金抵抗(帝人製、3線を4線に増線)をCCDチップ(ダミーチップ)側面の表面
に近い部分に装着した。(写真1,2)
抵抗の上からアルミ板を渡し、両端を2本の螺で抑えることで抵抗をチップとの
間に挟み固定した。
抵抗とチップ本体の間には、熱接触を良くするために0.1mm厚のインジウム片を
挟んだ。
温度測定にはLakeshore331(Moircsグループから貸与)を使用した。
一方、吸着材ケース部、および、コールドプレート(チップ直下)の2点について
は、従来と同じく100Ω白金抵抗が取り付けられており、LIPS用Lakeshore330で
測定を行った。
5/1 18:24から約19時間、真空引きを行い、dewar内の圧力が
1.2x10-3 Torrまで低下した。
圧力低下が非常に遅かった。これは、前回の実験終了(3月末)からの
放置期間に吸着材への吸着気体が増え、常温時のアウトガスが増加した
ためかもしれない。
その後、冷却を開始し、約6時間で吸着材ケース温度105K、コールドプレート
温度163Kまで低下した。内部圧力は5x10-7 Torrまで低下し、その後の
真空引き停止後も10-6 Torr台を維持することができた。
場所 | 光学暗室 |
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日時 | 2002/5/1 13:00- 5/5 |
外気温 | 〜22℃ |
実験者 | 秋田谷、伊藤、小沢、長、本間 |
写真1 : CCD chip(ダミーチップ)。側面(手前)の上1/3に白金抵抗を
取り付け、アルミ板を渡して2本の螺でおさえつける。
写真2 : 白金抵抗取り付け、dewar組み込み後。
吸着材ケース(赤)、コールドプレート(緑)、チップ上部(青)の冷却の様子を
図1に示す。また、チップ温度とコールドプレート温度差(ΔT)の時間変化を
図2に示す。コールドプレート温度は約147Kに、チップ上部温度は
それより約11°C高い158Kに収束している。
図3に、コールドプレート温度と、チップ部〜コールドプレート温度差(ΔT)の
相関を示す。コールドプレートの冷却が進むにつれて、チップ部との温度差が
大きくなる傾向があり、コールドプレート温度180-145Kでは、チップ部の温度は8-11K高いことが分かる。
その後、Messia、M-Frontをdewarに接続し、それぞれ電源供給を行った。
ダミーチップはであるが、チップ上ではおそらく正常チップに近い電力消費が
あると期待される。
通電後の各点の温度変化を図4に示す。chip部での電力消費によると思われる
温度上昇がみられた。各点ともに約10°Cの温度上昇が生じ、収束している。
さらに、通電をoffにし、その後コールドプレート温度155K設定でコールドプレー
ト上のヒーターによるPID温度制御を開始した。
図5に、初期の冷却時(赤;図3で既出)、チップ通電時(緑)、再度の通電off時(青)、
温度制御実施時(桃)それぞれにおける、コールドプレート温度とチップ部〜
コールドプレート温度差の相関を示す。
チップ通電時は、非通電時に対して、チップ部温度が約0.5-0.3Kさらに高く
なっている。これは特にチップ上面で電力消費による熱流入が生じることにより、
チップ下面のコールドプレートとの温度勾配が急になったためと考えられる。
非通電時にヒーターを使用した温度制御を行った場合は、チップ温度は
ヒーター未使用時とほぼ同じ温度に落ち着いており、
コールドプレート温度とチップ温度の相関はヒーター使用の有無に
影響を受けないといえる。
図1 : 各点の温度の時間変化図。
図2 : チップ部温度 - コールドプレート温度差の時間変化。
図3 : コールドプレート温度 と、 チップ部〜コールドプレート温度差の
相関。
図4 : CCDエレクトロニクス通電後の各点温度変化。
図5: コールドプレート温度とチップ部〜コールドプレート温度差の相関図。
初期冷却時(赤)、チップ通電後(緑)、電源off後(青)、155K温度制御開始後(桃)。
チップへの熱収支を考える。表面からの輻射による熱流入Qrad、
その他のチップへの熱流入(配線からの熱伝導など)をQx、コールド
プレート下からの
熱流出をQoutとすると、
一方で、上記見積りで用いたκ、もしくはS2の値が1/100以下になると、ΔTは
a few Kの程度まで上昇し、実験でのΔTを説明できる。
例えば、コールドプレートへのチップ固定が緩かったり、コールドプレート
の上面の凹凸の存在により、両者の接触面積が1/100程度減少していれば、
このようなことが生じ得る。接触面積が1/100というのは小さすぎて考え
にくいが、多少の接触不良の可能性は現段階では排除できない。
CCDチップ通電時にΔTx〜0.5 K程度の温度上昇がみられたことから、
また、今回チップ上部に取り付けた白金抵抗の固定に用いたアルミ板は、
チップから熱伝導率の比較的小さいステンレスねじで繋がっている。
そのため、アルミ板への輻射による熱流入により、チップ本体とアルミ板の間で若干の
温度差が生じる可能性がある。固定用アルミ板の放射率、ステンレス螺と
アルミ板の接触の程度についてworst caseを考えると数 Kの温度差が生じる
場合があり、仮にチップがコールドプレートと同温度であっても、それより
温度の高いアルミ板に挟まれた抵抗がチップ上部の真の温度より高い温度を
示すかもしれない。
抵抗固定具とチップの熱接触を良好にして、両者間に温度差が生じないような
工夫が必要である。
しかし、以前のCCD読みだしノイズの温度依存性の測定(補足1)によると、
コールドプレート温度とCCD温度が異なるのは確実であるので、
もしここで述べたように固定具とチップ板の温度差が生じていたとしても、
全てがそれによるものではない。測定したΔTは、アルミ板の
温度差による効果が真の温度差に加算されたもの、即ち真の温度差の
上限値であると解釈すべきである。
ほかにも、白金抵抗自身の配線が抵抗に近い部分で常温部に接触して 熱流入を生じると、抵抗温度がチップ側の接続している部分の値より大きな値を 示すかもしれない。これは全ての抵抗に言えることである。 この可能性を排除するために、抵抗から数cmの配線はコールドプレートに 張り付けて、配線を通じた抵抗への直接の熱流入を無くすことが必要である。
CCDチップ上部に温度センサーを取り付け、冷却時におけるコールドプレートと
CCDチップ上面の間の温度差を測定した。
コールドプレート温度測定値が150 K前後のとき、チップ部分温度はコールドプ
レート温度に対して約10℃高く、冷却とともに温度差が若干上昇する傾向を示し
た。
また、CCDチップ通電時はチップ温度はさらに0.5℃程度上昇した。
以下に述べるような測定の不定性があるが、
CCDチップ温度は最大でもコールドプレート温度に対して約10℃高い程度
ということが分かった。
測定時の不定性として以下の2点が考えられる。それぞれの改善点について併 せて示す。
また、上限値として得られた約10℃の温度差は、コールドプレートと
チップの熱接触が不十分であるため生じている可能性が高い。
インジウム箔を間に挟むなど、熱接触を確実にしてチップを取り付ける
ことが必要である。
上記測定時の不定性を排除し、チップの固定を強固にしたうえで再度 同様の実験を実施し、チップ上面での正確な温度を測定したい。
CCD内部配線変更前(2001-12-29)
Tint=800ns(gain〜0.5)のとき、CCD温度を変えてbias取得。
CCD温度185-175Kでnoise急減、170K以下ではほとんど下がらなくなる。
CCD内部配線変更後。コールドプレートにCCDGND線を直接接続(2002-1-9)
CCD温度175-160Kでnoise急減、160K以下で〜15ADU
温度-noise依存性
低温でノイズが減少する。CCD内の配線の変更すると、同温度でもノイズが 異なるのは、温度センサー(コールドプレート上CCD直下)の指示値がCCDの実際の温度を正しく指していない ためだろう。