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2.4.3 積分時間オフセット時間の存在

照射光量の補正後、照射量の異なる5つの領域 (表2)における Linearity Residuals、 $LRs(S_{\rm ADU})$ を、シグナル値、および、積分時間に対して図 45に示した。


表 2: 領域とその領域でカバーするシグナル値範囲
領域 2秒積分で得られる 積分時間 0〜46 sec で
  シグナル値 カバーするシグナル値範囲
1 $\sim 2500$ ADU 0 - 60000 ADU
2 $\sim 850$ ADU 0 - 20000 ADU
3 $\sim 450$ ADU 0 - 10000 ADU
4 $\sim 170$ ADU 0 - 4000 ADU
5 $\sim 40$ ADU 0 - 1000 ADU


$LRs$は、本来、異なるデータセットから得た場合でも、 シグナル値が同じならば、差異無く、一意に決まるはずの量である。 しかし、選択した領域によって、同一のシグナル値に対する $LRs(S_{\rm ADU})$が異なっている(図4)。

また、比較的強い照射量でデータの取得した場合(領域1-3)、 積分時間に対する、 $LRs(t_{\rm exp})$ の振る舞いは、ほぼ一致している(図5)。照射の弱まる領域4,5では、相違がみられる。

即ち、ここで求めた$LRs$は、明らかに、積分時間に依存する何らかの系統的 な変動が加わっていると考えられる。

ここで、 我々が測定時に設定し記録されている積分時間$t_{\rm exp}$に対して、 真の積分時間$t_{\rm real}$が、何らかの原因で$\Delta t$だけ長くなっていると仮定する。 即ち、

\begin{displaymath}
t_{\rm real} = t_{\rm exp} + \Delta t
\end{displaymath} (4)

このとき、真のLinearity Residuals、 $LRs_{\rm real}$ と、測定された $LRs_{\rm obs}$の差$\Delta LRs$は、


$\displaystyle \Delta LRs$ $\textstyle =$ $\displaystyle LRs_{\rm obs} - LRs_{\rm real}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle LRs(t_{\rm exp} ) - LRs(t_{\rm exp} + \Delta t)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle 100\left(1-
\frac{S_{\rm ADU_M}/t_{\rm E_M}}{S_{\rm ADU}(t_{\rm E...
...{\rm ADU_M}/t_{\rm E_M}}{S_{\rm ADU}(t_{\rm E})/(t_{\rm exp}+\Delta t)}
\right)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle 100 \frac{S_{\rm ADU_M}/t_{\rm E_M}}{S_{\rm ADU}(t_{\rm E})}\Delta t$ (5)

また、$LRs$を求めているシグナル値範囲で、充分線形性が良い、即ち、 $LRs_{\rm real}\sim 0$ と見倣せると仮定すると、
\begin{displaymath}
S_{\rm ADU}(t_{\rm E}) \sim \frac{S_{\rm ADU_M}}{t_{\rm E_M}}t_{\rm E}
\end{displaymath} (6)

とできる。このとき、
$\displaystyle LRs_{\rm obs}(t_{\rm E})$ $\textstyle \sim$ $\displaystyle \Delta LRs$  
  $\textstyle \sim$ $\displaystyle 100 \frac{\Delta t}{t_{\rm E}}$ (7)

と書ける。 即ち、 $\Delta t \neq 0$ の場合、式(7)で表されるように、 $LRs_{\rm obs}$が積分時間$t_{\rm E}$に反比例し、積分時間が短い程大きくなる。

5に示されている$LRs$の振舞には、まさにこの効果が現れている と考えられる。

式(7)より、十分長い積分時間では$LRs$$\Delta t$の影響を受 けず、 $\Delta LRs \rightarrow 0$となる。 さて、$\sim 20$秒以上の充分長い積分時間で得たデータ点においては、 5つの領域で得たどのデータセットでも、$LRs \sim 0$である。 この条件に合うデータ点のみを選びだすと、 図4より、$ > 2-300$ ADUでは $LRs_{\rm real}\sim 0$と見倣して 良いだろう。

また、最短の積分時間の2秒積分で得られたシグナル値が、2-300 ADU以上とな る領域1,2,3は、 $LRs_{\rm real}\sim 0$が成り立ち、$LRs_{\rm obs}$には、 $\Delta t \neq 0$の効果のみが現れていると考えられる。

ここで領域1, 2, 3の $LRs_{\rm obs}(t_{\rm E})$に、

\begin{displaymath}
LRs_{\rm obs}(t_{\rm E})= 100 \frac{\Delta t}{t_{\rm E}} + b
\end{displaymath} (8)

をフィッティングすることで、$\Delta t$として、
\begin{displaymath}
\Delta t = 0.085 \pm 0.002 \; {\rm sec}
\end{displaymath} (9)

が得られた。 (式(8)の定数項$b$は、$LRs$を求める際に使用した基準レベル $S_{\rm ADU_M}/t_{\rm E_M}$ にも一定の誤差が含まれている可能性を考慮して加えた。)

即ち、なんらかの原因で、真の積分時間$t_{\rm real}$が、設定した積分時間 $t_{\rm obs}$に対して $\Delta t = 0.085 $ sec だけ長くなっていることが分 かった。 以後、積分時間として、画像ヘッダに記録された値に $\Delta t = 0.085 $ secを加 えた値を正しい積分時間と見做す。

図 4: 5つの画像内領域(0-46secの積分時間の幅において、カバーするシグ ナル値範囲が異なる)における、積分時間対シグナル値の関係から得た Linearity Residuals、$LRs$。シグナル値に対して示した。
図 5:4と同様。積分時間に対して示した。曲線は、 領域 1,2,3の$LRs$に式(8)をフィッティングしたもの。
\includegraphics[scale=1.00]{rep_offset2.eps}

\includegraphics[scale=1.00]{rep_offset1.eps}


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Hiroshi AKITAYA 平成15年11月20日